脳とこころのプライマリケア 監修のことば

監修のことば

わが国にプライマリケア医学が紹介されてから,すでに40有余年が経とうとしている.この間,内科学を中心とする身体医学領域ではプライマリケア医療における対応やその背景にある科学が少しずつ明確になりつつある.医学の中の心の科学は精神医学,心身医学などとしてとりあげられているが,プライマリケアでは,安易なストレス対策のような適切な医学の議論にもとづかない対応が広まっているように思うし,一方,神経伝達物質や画像所見などの科学性を追求した心の科学には難解な部分が多く,すぐ日常臨床に役立つとは言い難い.心の医学における科学研究と専門家による治療,そして適切な知識によるプライマリケア医の対応をつなげるような本を作れないかと常々考えていた.

医師の教育においては,2004年度に始まった新医師臨床研修制度では精神科が小児科や産婦人科とともに必修課目となったため,心の問題に対するプライマリケア医や精神科以外の医師の対応の進歩に大きな期待をかけていた.しかしそれも効果が十分に検証されないまま,2010年度からは精神科は選択必修課目となり,かつてと同じようにこころの医療の現場を経験しない医師が多く生まれることになった.医師の初期研修で精神医学をどのように教えるかという計画性が不十分であったのは事実であろうが,プライマリケア医学がbio-psycho-social-ethicalのあらゆる方向から患者を診ることを基本としているのであれば,psychoの研修はもう少し慎重に扱ってほしかったとも思う.これも本書を世に問いたいというきっかけになった.

本書は,個々の項目においてプライマリケア医が疑問に感じたり,対応に困ったりするような問題から出発して,その背景にある科学を相当専門的な領域まで記載することを目標とした.読者の方はその項目において「自分はここまでの知識で何とかなる」と考えればその項目まで読んでいただければよいし,そこからさらに興味を感じて読み進むことが,新たな知識の源となれば望外の喜びである.

また目の前の患者さんにどう対応するかという指針を得やすいように,教科書にありがちな疾患単位ではなく,各項をできるだけ症状単位で構成した.執筆者も臨床経験の豊富な医師を中心にした陣容とし,プライマリケア医にも読みやすく,かつ読み進めていきたくなるような内容にすることを念頭に置いて執筆していただいた.

本書は『脳とこころのプライマリケア』と銘打っているが,身体と精神をそれほど明確に区別していない.プライマリケアでは基本的には身体も心も頭においた対応が必要であると考える.プライマリケア医との話の中で,「どこまで精神的な問題が大きくなったら精神科医に依頼すべきか」という問題がよく論じられる.一定の基準がある訳もなく,個々の医師の知識によっても異なるし,患者さんの考え方によって調整すべきことでもあろう.そのあたりの境界にある知識を伝え,適切な対応が進むようにしたいというのも監修者の強い希望である.

本シリーズが「脳とこころ」の問題に関する適切なプライマリケアを成長させ,心身両面に対するよりよい医療,患者のための医療に寄与することを願ってやまない.最後に,監修者の意をくみ,本企画に参画していただいた総勢600名を超える諸先生方と,8名の編集委員の先生方にお礼を述べたい.

2010年5月 日野原重明
宮岡 等

 

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